外国人労働者の受け入れが増える一方で、不法滞在者の雇用による摘発件数も増加しています。
法務省の発表によると、日本の不法滞在者数は約70,000人に上り、その一部が企業で就労している可能性が指摘されています。
本記事では、不法滞在者の雇用リスクを回避するための方法を解説していきます。
不法滞在と不法就労の基礎知識
不法滞在とは、滞在資格を持たない外国人が日本に滞在している状態を指します。
在留期間を超えてしまった、そもそも在留資格を持っていなかったなど、理由はさまざまです。
不法滞在が発覚した場合は、入国管理局に身柄を収容されて強制送還されるか、在留特別許可に関する手続きが取られます。
ただし、帰国を希望して出頭した場合は出国命令制度が適用されます。
出国命令制度が適用された場合は、入国管理局に収容されないうえ、日本に入国できない期間も短いです。
自国に帰る意思がある場合や、やむを得ない理由で帰国できないと言われた場合は、出頭を促しましょう。
不法就労との違い
不法就労とは、日本で就労する資格がない外国人が日本で働くことを指します。
不法就労には大きく分けて下記のケースがあります。
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資格を持っていない外国人が就労しているケース
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在留資格は持っているものの、就労する許可を受けていないケース
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就労ビザで認められた業種以外に就労するケース
特に、就労ビザで認められた業種以外で働くケースに注意が必要です。
雇用する際は在留資格の有無に加えて、就労ビザの種類も確認しましょう。
不法就労助長罪とは
不法就労助長罪とは、不法な就労活動を助長する行為を罰するものです。
出入国管理及び難民認定法で定められており、雇用主や斡旋業者などが処罰の対象となります。
違反した場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が課される可能性があります。
不法滞在者と知らずに雇用した場合でも罪に問われる可能性があるため、外国人労働者を雇用する際は在留カードやパスポートをよく確認しましょう。
不法滞在の見分け方
不法滞在者か判断したい場合は、公的な書類を必ず確認してください。
外見や日本語の能力で判断してしまうと、差別や人権侵害につながる恐れがあります。
この章では、在留カードやパスポートを使って、滞在資格を確認する際のポイントを解説します。
在留カードを確認する
日本に3ヶ月以上滞在する外国人には、在留カードが交付されます。
在留カードは日本での滞在資格を証明する身分証明書であり、氏名や生年月日、国籍や在留資格の有無などを確認することが可能です。
在留カードに記載されている下記の項目を確認すれば、不法滞在者かどうかを見抜けます。
項目 | 確認箇所 |
---|---|
有効期限 | 在留期間を過ぎている場合は不法滞在となる |
在留資格 | 許可された活動内容と、これから従事する予定の業務が一致していない場合は不法就労となる |
就労制限の有無 | 在留カードの裏面に「就労不可」と記載されている場合は就労ができない |
また、在留カードそのものが偽造されていないかも確認しましょう。
偽造在留カードの判別方法は別の見出しでまとめていますので、参考にしてください。
パスポートを確認する
在留カードを確認できない場合は、パスポートを確認しましょう。
短期滞在の場合は在留カードは交付されませんが、ビザや出入国在留管理庁のスタンプなどで在留資格を確認できます。
この時、パスポートに貼付されたビザの有効期限も合わせて確認するようにしてください。
滞在期間は、パスポートに押された日本への入国スタンプ(上陸許可証印)でも確認できます。
在留資格があるか、期間を超過していないかの2点を確認すれば、相手が不法滞在者か見分けられるでしょう。
Tips:確認する際の注意点
不法滞在者かどうかを見分ける際は、公的な書類を必ず確認しましょう。
在留資格があると本人が主張していても、在留期限が切れていたり、該当する業務の就労ビザを持っていなかったりする可能性が考えられます。
公的書類の確認が難しい場合は、警察や出入国在留管理庁などの公的機関への相談もおすすめです。
偽造在留カードの判別ポイント
近年の偽造在留カードは、肉眼では見分けがつかないほど精巧に作られています。
目視確認のみでは、後々取り返しのつかない事態を招くかもしれません。
本物の在留カードに施された加工や、専用アプリを使った判別方法などを学び、偽造在留カードにも気付けるようにしましょう。
カードの透かしやエンボス加工
本物の在留カードには、偽造防止のために下記のような加工が施されています。
確認項目 | 詳細 | 見分け方 |
---|---|---|
ホログラム | ホログラム加工が施されており、見る角度によって複雑な光沢やデザインの変化が見られる |
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マイクロ文字 | カードの背景には、非常に小さなマイクロ文字が印刷されている |
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エンボス加工 |
カードの文字や数字の一部にはエンボス加工が施されており、触ると凸凹する |
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透かし | カードを光に当てると透かし模様が見えてくる |
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これらは、専門知識がなくても簡単にチェックすることができます。
偽造か否かをスピーディーに確かめたい場合はチェックしてみてください。
フォントや文字間隔に違和感がある
偽造在留カードは、本物のカードをスキャンしたり、模倣したりして作られることがほとんどです。
そのため、細部に不自然な点が見られる場合があります。
項目 | 詳細 |
---|---|
フォント |
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文字感覚 |
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印刷 |
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これらの違いは、本物のカードと見比べると判断しやすくなります。
ICカードリーダーと無料アプリで真偽を確認する
在留カードが偽造でないか確実に判断したい場合は、ICチップを読み込みましょう。
出入国在留管理庁は、このICチップを読み込むための「在留カード等読取アプリケーション」というアプリを提供しています。
無料でダウンロードできるため、下記の手順に沿って確認してみてください。
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スマホのアプリストアで「在留カード等読取アプリケーション」を検索し、ダウンロードする
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アプリを起動し、スマホのNFC機能を使って在留カードにスマホをかざす
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ICチップに記録された情報が読み取られる
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読み取られた情報が、カードに記載されている情報と一致するかを確認する
ICチップの情報とカードの記載内容が異なっていた場合は、偽造カードの可能性が極めて高いです。
巧妙な偽造カードも確実に判別できるため、不安な場合は活用しましょう。
不法滞在者を採用した際に起こりうるリスク
外国人を雇用する際、日本で合法的に就労できる資格を持っているかを確認することは、雇用主の責任です。
もし不法滞在者を採用してしまった場合、企業や事業主は以下のようなリスクに直面することになります。
法的リスク
不法滞在者を雇用する行為は「不法就労助長罪」に問われます。
働く資格がないと知った上で雇用した場合はもちろん、在留カードなどの身分確認を怠った場合も罪に問われる可能性があります。
そのため、たとえ雇用主が不法滞在者だと知らなかったとしても、書類の確認を怠った過失が認められれば、罪に問われるのです。
外国人労働者を雇用する際は、必ず身分証明書を確認しましょう。
経済的リスク
不法就労者を採用した場合、下記のような経済的損失が発生する可能性があります。
項目 | 詳細 |
---|---|
損害賠償 | 不法就労者が事故・トラブルを起こした場合、雇用主が使用者責任を問われ、多額の損害賠償を請求される可能性がある |
業務の中断 | 警察や入国管理局の捜査が入り、業務が中断・停止する可能性がある |
給与等の支払い | 不法就労者であっても賃金を支払う義務は発生するため、退職金や解雇手当を巡るトラブルに発展する可能性がある |
信用リスク
不法就労者を採用していた事実が明るみになれば、企業の社会的な信用が損なわれます。
企業のイメージが悪化すれば、取引先から契約を打ち切られたり、新規の取引を拒否されたりするリスクもあります。
業務停止命令や許認可の取り消しなど、厳しい行政処分を受ける可能性も考えられるでしょう。
これらのリスクを回避するためにも、外国人を雇用する際は在留期間や在留資格をしっかり確認してください。
採用後に不法滞在が発覚した場合の対応フロー
もしも、採用後に不法滞在が発覚した場合、その後の対応が企業の命運を分けます。
事態の悪化を防ぎたい場合は、ただちに就労を中止させ、公的機関に速やかに通報しましょう。
この章では、不法滞在の発生時に落ち着いて対処するためのフローを具体的に解説します。
就労を中止し事実確認を取る
不法滞在の疑いが生じたら、本人に事情を説明して就労を中止させてください。
不法就労の疑いがある人物を働かせ続けると、不法就労助長罪に抵触する恐れがあるためです。
次に、滞在期間や在留資格の確認や、本人への事情聴取などを実施します。
この時、採用時に提出された書類や雇用に関する記録をまとめておくと、警察や入管からの捜査にも落ち着いて対応できます。
チェックリスト
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本人に就労の中止指示を出す
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本人に事情を聞く
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在留カードやパスポートの有効期限を確認する
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在留カードのコピーや履歴書、勤怠記録、給与明細などをまとめておく
公的機関に通報・相談する
不法滞在が明らかになった場合は、入国在留管理庁や警察署に速やかに通報してください。
通報を怠ると、不法就労助長罪に問われる可能性があります。
不法就労者の氏名や国籍、就労内容や発覚に至った経緯など、できるだけ詳しく伝えるようにしましょう。
不法滞在なのか判断しかねる場合は、専門家に相談して助言をもらうのがおすすめです。
法律の専門家である弁護士や、在留資格に詳しい行政書士に現在の状況を説明すれば、今後の対応が明確になります。
チェックリスト
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入国在留管理庁や警察署に通報する
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不法就労者の情報や発覚した経緯などを説明できるようにする
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判断が難しい場合は専門家に相談する
不法滞在者との雇用関係を解除する
不法滞在者には日本での就労資格がないため、雇用契約を解除してください。
解雇通知は口頭のみではなく、書面でも通達しておくと、後々のトラブルを未然に防げます。
不法滞在者が健康保険や厚生年金に加入していた場合は、資格喪失手続きも忘れずに行いましょう。
また、相手が不法滞在者であっても、働いた分の賃金を支払う義務は発生します。
未払いの給与がある場合は、不法就労が発覚した日までの給料を計算し、支払いを済ませてください。
チェックリスト
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解雇した旨を本人に伝える
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健康保険や厚生年金に加入しているか確認する
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健康保険や厚生年金に加入していた場合は、資格喪失手続きを行う
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未払いの賃金がないか確認する
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未払いがある場合は、賃金を計算して支払う
再発防止策を講じる
手続きなどが落ち着いたら、同様の問題が発生しないように再発防止策を講じましょう。
採用担当者の再教育やICカードリーダの活用、採用プロセスの見直しなどを実施すれば、不法滞在者を雇用する可能性を抑えられます。
在留カードの期限を定期的に確認すれば、採用後の在留期間の満了にも気づけるようになります。
これらの対策を社内で共有・実行することで、不法滞在者を雇用する事態を防げるでしょう。
チェックリスト
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再発防止策を社内で検討する
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防止策を共有する
採用担当者ができる予防策
事前に予防しておけば、不法就労のリスクは最低限に抑えられます。
採用担当者が主体となり、採用フローにおける資格確認を義務化するところから始めましょう。
この章では、採用前と採用後にできる不法就労の予防策を解説していきます。
採用フローに資格確認を組み込む
最も基本的な対策の1つに、採用時の就労資格の確認の義務化が挙げられます。
採用前に在留カードやパスポートを提出してもらい、在留期間と在留資格を確認する方法です。
応募者が就労資格を証明できない場合、採用を見送ることを採用基準に明文化しておくのも有効な手段です。
ICチップを使ったダブルチェックも義務付ければ、偽造カードにも気付けるため、不法滞在者を雇用するリスクを格段に抑えられるでしょう。
雇用契約書に「在留資格条件」を明記する
雇用契約に就労資格に関する事項を明記しておけば、後のトラブルを未然に防げます。
この契約が、本人が日本で就労可能な在留資格を有している場合に有効なものであると明確に記載しましょう。
在留資格喪失時の対応に関する条項も盛り込んでおけば、万が一の事態に備えられます。
契約締結後は、双方の合意があったことを証明するために、本人にも署名・捺印をしてもらってください。
外国人雇用状況届出を必ず提出する
雇用主は、外国人労働者を雇用・離職した場合、その旨をハローワークに届け出る義務があります。
詳細を下記にまとめました。
項目 | 詳細 |
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対象者 | 日本国籍を有しない者(特別永住者を除く) |
提出期限 |
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法的義務と罰則 | 提出を怠ったり、虚偽の届出をしたりすると、30万円以下の罰金が課せられる |
外国人を雇用・離職する場合は、提出期限内に届出をするようにしましょう。
定期的な資格更新チェック
在留資格には期限があります。
採用時に在留資格が有効だった場合でも、更新せずに在留資格の期限を過ぎた場合は不法滞在に該当します。
採用時も在留資格の期限を定期的にチェックし、期限が迫っている場合は更新するように促しましょう。
下記の方法で更新時期を管理すれば、在留資格の期限切れによる不法滞在を未然に防げるでしょう。
項目 | 詳細 |
---|---|
期限管理台帳の作成 | 外国人従業員の在留期間を一覧にし、いつでも確認できるようにする |
更新時期の通知 | 在留期間の満了日が近づいてきたら、本人に更新手続きを促す |
更新後の確認 | 更新手続きが完了したら新しい在留カードのコピーをもらい、有恋期限が延長されていることを確認する |
在留カードは、在留期間満了日の3ヶ月前から更新申請が可能です。
余裕を持って更新できるように、通知は早めに出しましょう。
FAQ
Q1.不法滞在とオーバーステイの違いは?
A.不法滞在はオーバーステイより広い概念であるという違いがあります。
厳密にいうと、オーバーステイは不法滞在の一種にあたります。
しかし、どちらも日本に違法に滞在している状態を指すため、法律上は同じ意味で使われるケースが多いです。
Q2.企業は入管に事前照会できる?
A.企業が個人の在留資格について、入国管理局に直接事前照会することはできません。
在留資格に関する情報は個人情報として扱われます。
個人情報保護の観点から、本人の同意なく企業が照会することは許可されていません。
確認したい場合は、本人から在留カードを提示してもらい、その場で内容を確認してください。
Q3.従業員が在留カードを紛失した場合の対応は?
A.速やかに再交付申請を行いましょう。
在留カードを紛失してから14日以内に、最寄りの警察署で遺失物届けを提出し、「遺失物届出証明書」を受け取ってください。
手続きから14日以内に、証明書を持って地方出入国在留管理局に行けば、在留カードの再交付を申請できます。
Q4.雇用後に期限切れになった場合の責任は?
A.雇用後の期限管理を怠った場合、企業にも責任が生じる可能性があります。
雇用主には、雇用している外国人労働者の在留資格が有効か、継続的に確認する義務があります。
この確認作業を怠り、在留期間が切れたあとも就労させていた場合、不法就労助長罪に問われる可能性があるため、注意が必要です。
まとめ
不法就労は、企業に「不法就労助長罪」という重い法的責任をもたらします。
たとえ知らなかったとしても、採用時の確認を怠れば罪に問われる可能性があるため 、事前対策が不可欠です。
リスクを回避するためにも、採用フローに在留資格の確認を義務付けたり、雇用契約書に在留資格に関する条件を明記するなどの対策を講じてください。
適切な対応と、定期的な資格更新チェックなどの再発防止策を講じれば、コンプライアンスを遵守した外国人雇用を実現できるでしょう。